真夜中、蛾。
もう寝ようかなと思っているときに遭遇する虫ってほんと何なんでしょう。
小指の先から第二関節くらいまでの大きさの蛾。(人それぞれですが)まあまあ怯む大きさの空(くう)を舞う蛾。
ああ。なぜ出会ってしまったのでしょう。いっそ気づかずにいたかった。どこから入ったんだ。誰だ、開けっ放しにしてたのは。
ああ、めんどくさい。お前とかゴキブリとかは放っておく訳にいかないじゃないか。
お前は今、台所上の照明の縁に止まっている。そこじゃ、ハエタタキが使えないから一旦、ちょんっとつついていい感じの所に止まってくれよ。
ちょん。
暴れるな。うわっ、こっちに来るな。それにあんまり台所で飛び回らないでくれ。何かがお前から飛び散る気がする。蛾ってりんぷんがあるんだろ。あっ、ダメだ、そっちは。
冷蔵庫の上に消えた。届かない、見えない、どこだ、怖い。急に飛び出すなよ。
ツンツン、あれ?
ツンツン、いないぞ?
ツンツン、消えた?
あっ、冷蔵庫と壁の隙間の床にいる。今はじっとしてる、チャンス。でも狭くてまたもやハエタタキが使えない。
人類の最強兵器の投入。蛾に効くかわからないが蟻用の殺虫剤をいざ。
ぶしゅーー。
効いた!
暴れてる。
ぎゃーー。来るなー。
動きが鈍くなる。もう彼は高く飛べない。
一瞬の隙。ハエタタキ、炸裂。一発目外した、なんのもう一発。
バシッ。
戦いは終わった・・・。
無慈悲な一撃。書いていて罪悪感がわいてきた・・・。すまない。
ハエタタキには跡が付いていた。拭く。
床も。
そして彼自身も。何枚もティッシュを重ねてなるべく彼との接触距離を遠くして感触も無いように、ふわっと包むようにつまんでビニール袋に入れ厳重に結び燃えるゴミ袋に入れた。
すまない。
蛾よ、我が家にはもう決して入ってくることなかれ。入ってくることは互いにメリットはあらず。頼む。
真夜中。家族はこの戦いを知らない。みんなは何事もなかったように朝を迎えるだろう。台所で朝食を作りコーヒーを淹れるだろう。
僕はなにも語らない。
ただこう言うだろう。
「僕にもコーヒー淹れて」。